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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和58年(ネ)107号 判決

原審受付昭和五八年(上)第四八号控訴事件控訴人、

同第四九号控訴事件被控訴人(以下第一審申請人という)

株式会社ほっかほっか亭

右代表者

木佐貫晶裕

右訴訟代理人

池田洹

右訴訟復代理人

寺田昭博

原審受付昭和五八年(上)第四八号控訴事件被控訴人、

同第四九号控訴事件控訴人(以下第一審被申請会社という)

株式会社富士創業

右代表者

山下茂一

原審受付昭和五八年(上)第四八号控訴事件被控訴人(以下第一審被申請人という)

水流シヅ子

外一二名

右一四名訴訟代理人

宇治野純章

末永睦男

主文

一  第一審申請人の控訴に基づき原判決中第一審被申請人らに関する部分を左記のとおり変更する。

1  第一審申請人が第一審被申請人らのためそれぞれ金一五〇万円の保証を立てることを条件として、次のとおり定める。

(一)  第一審被申請人らはそれぞれ本判決正本送達後二日以内に原判決添付別紙店舗一覧表記載の各自の店舗に設置しているテント、看板に表示された「ほっかほか弁当」の名称を抹消せよ。

(二)  第一審被申請人らがそれぞれ右期限までにその抹消をしないときは、第一審申請人は鹿児島地方裁判所執行官に当該第一審被申請人の費用でその抹消をさせることができる。

(三)  第一審被申請人らは「ほっかほか弁当」の表示をしたテント、看板、旗、包装紙、容器及びメニューを使用してはならない。

2  第一審申請人の第一審被申請人らに対するその余の申請を却下する。

二  第一審被申請会社の控訴に基づき原判決中第一審被申請会社に関する部分を左記のとおり変更する。

1  第一審申請人が第一審被申請会社のため金五〇〇万円の保証を立てることを条件として、次のとおり定める。

第一審被申請会社は「ほっかほか弁当」の表示を用いて弁当の製造販売を目的とするチェーン店を募集してはならない。

2  第一審申請人の第一審被申請会社に対するその余の申請を却下する。

三  訴訟費用は第一、二審とも第一審被申請会社及び第一審被申請人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決事実摘示の申請の理由一項の事実並びに、第一審申請人のフランチャイズシステムは東京に総本部があつて、各都道府県に地区本部を置き、総本部が鹿児島地区を含め右フランチャイズシステムの加盟店に「ほっかほっか亭」という商号及び暖かい弁当を示す標章を使用させていること、右地区本部が加盟店から受領するロイヤルティ月額七万円のうち二万円を総本部に支払つていること、第一審申請人の地区加盟店がいずれも軒先看板として黄色のテントを使用し、そのテントに独特の字体でかつ赤色の文字で「ほっかほっか亭」の商号表示をしていること、第一審申請人の地区加盟店の店舗が弁当の販売形式としてテイクアウト方式をとつていることは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が疎明される。

すなわち、

1  ほっかほっか亭総本部は昭和五三年七月ころ設立された会社であつて、フランチャイズシステムにより「ほっかほっか亭」という略商号(以下、商号という)、暖かい弁当を示す標章(釜を図案化したもの、以下同じ)、一定様式の店舗システム等統一されたイメージをもつて、自己の開発した持ち帰り弁当の製造販売事業(以下、ほっかほっか亭事業という)を主宰、展開しているものである。即ち、ほっかほっか亭事業は、総本部が各都道府県に散在する独立の法人(地区本部)とフランチャイズ契約(地区本部加盟契約)を結んで同法人(地区本部)に対し有償で一定地域における右事業の実施権並びに第三者への再実施許諾権を付与するとともに、右商号、標章等を使用させ、さらに、同法人(地区本部)がこれに基づき第三者(加盟店)とフランチャイズ契約(連盟加入契約)を結んで、第三者(加盟店)に対し有償で所定の店舗における右事業の実施権を付与するとともに、右商号、標章等を使用させ、総本部ないし地区本部がその傘下の加盟店に対し右事業実施に関する各種の営業指導を施すという方式で運営されるものである。

総本部は前記設立後、ちらし、新聞、テレビ等によりほっかほっか亭事業の宣伝をして地区本部、加盟店の募集をし、地区本部は自己の地区内で同様の宣伝をして加盟店を募集し、その結果、山下茂一が後記ほっかほか弁当事業の加盟店募集を始めた昭和五七年二月当時、ほっかほっか亭事業の地区本部の数は二〇近くになつて全国の多数の主要都市に及び(うち九州では、九州地域事業本部のほか鹿児島、宮崎、大分の各地区本部ができた)、その加盟店の総数は六〇〇店を越えるまでとなり、急成長を遂げつつあつた。さらに、その後の昭和五七年九月ころには右地区本部の数は三一に及んで全国の大部分の主要都市にまたがり、その加盟店の総数は一〇〇〇店を越え、その総売上高は外食産業の中では上位を占めるに至つた。なお、「ほっかほっか亭」は昭和五八年一月二八日総本部の商標として登録された。

2  第一審申請人は昭和五五年一一月ころ総本部との間で締結したほっかほっか亭事業のフランチャイズ契約(地区本部加盟契約)により、他の地区本部の場合と同様に、総本部に対し加盟金三〇〇万円を支払い、かつ、自己傘下の加盟店から受取るロイヤルティ月額七万円中二万円を支払うことなどを約して、総本部から鹿児島県における右事業の実施権及び第三者への再実施許諾権を取得した。しかして、第一審申請人はほっかほっか亭鹿児島地区本部と称して、自己とフランチャイズ契約(連盟加入契約)を結んで所定の店舗において右事業を実施する第三者、すなわち自己傘下の「ほっかほっか亭」加盟店を募集し、その結果、最初の右加盟店の店舗が同年一二月一七日鹿児島市内(県庁電停前)に開設され、その後昭和五六年一〇月ころまでの間にさらに新たな自己傘下の右加盟店である三店の店舗が同市内に開設された。そして、前記昭和五七年二月当時においても第一審申請人傘下の「ほっかほっか亭」加盟店の店舗数は以上の計四店舗であつたが、それまでの間に第一審申請人は鹿児島市を中心とする地域において、新聞折込のちらし、バスの車内放送、新聞掲載広告等により「ほっかほっか亭」加盟店の募集のみならず、開設した右加盟店の営業の宣伝を重ね、とりわけ、昭和五六年一〇月から一一月にかけて新聞折込のちらし広告約一〇万枚を配布して右宣伝を大々的になし、なお、昭和五七年二月以降には鹿児島地区におけるラジオやテレビによる右宣伝をもするに至り、同年一〇月末の時点では第一審申請人傘下の「ほっかほっか亭」加盟店数は二四店となつた。

3  第一審申請人は、他の地区本部がその傘下の「ほっかほっか亭」加盟店に対してするのと同様に、自己傘下の「ほっかほっか亭」加盟店との間で結んだ前記フランチャイズ契約(連盟加入契約)に基づき同加盟店から加入金三〇万円のほかロイヤルティとして毎月七万円宛の支払をうける代りに、右契約及び総本部作成の各種マニュアルによる営業指導を施し、右加盟店に対し、(一)「ほっかほっか亭」という商号及び暖かい弁当を示す標章等の使用を義務づけ、総本部指定の仕様に従い店舗前面に設置した黄色のテントに右商号を大きく赤色で、右標章を茶色ないし緑色で表示させるなどしている(原判決添付別紙Aはその一例―前記県庁電停前店の例―である)ほか、傍らに設置した黄色の看板にも右商号等を同様に表示させるなどし、(二)店舗の様式として右テント方式を採用させて、第一審申請人の指定する種類の弁当メニューをカラーコルトンで店舗カウンター部分に掲示させ、店舗のレイアウト、厨房も総本部指定のものとし、右弁当を第一審申請人指定の業者から配達される原材料をもつて製造させたうえ、これを第一審申請人指定の統一価額でテイクアウト方式により販売させている。右の措置は第一審申請人のフランチャイズシステムにおいて、総本部、第一審申請人を含む地区本部、その傘下の加盟店間の企業イメージの統一を図るためのものであるが、右加盟店の店舗は、ことに、右テント方式、看板、カラーコルトンの掲示等統一的仕様の外観において、消費者に印象的な効果を与えている。

以上のとおり疎明される。右疎明を左右するに足りる資料はない。

しかして、右疎明事実によれば、第一審申請人傘下の「ほっかほっか亭」加盟店の店舗前面に設置したテント、傍らに設置した看板に表示された「ほっかほっか亭」という商号は、そこに同様表示された暖かい弁当を示す標章とともに、店舗の右テント方式、看板のほかカラーコルトンの掲示等統一的仕様の印象的な外観と相俟つて、右加盟店の営業を表示するものであることはいうまでもない。しかしながら、右疎明事実をもつてしては、右商号等が右加盟店が製造販売する弁当についての商品表示であるとは疎明し得ず、他にこれを疎明する資料はない。なお、この点に関し、第一審申請人は、第一審申請人のフランチャイズシステムでは、その加盟店の製造販売する弁当を「ほっかほっか弁当」と総称している旨主張し、原審証人横内密の証言中これに副う部分もあるけれども、右弁当を「ほっかほっか弁当」と称するだけでは、「ほっかほっか弁当」が右弁当についての商品表示とならず、他に「ほっかほっか弁当」が右弁当についての商品表示であることを疎明する資料はない。

そして、第一審申請人とその傘下の加盟店は、前示の如きフランチャイズシステムに属しているものであるところ、第一審申請人の営業区域である鹿児島県においては、第一審申請人によつて一種の団体ないし結合体が構成され、それが一つの独立した営業主体のように機能しているものであるから、右加盟店の前示営業の表示は第一審申請人の営業の表示でもあるというべきである。

また、前示疎明のとおり、第一審申請人がほっかほっか亭鹿児島地区本部としてした加盟店募集活動により、第一審申請人傘下の「ほっかほっか亭」加盟店の店舗は、昭和五五年一二月一七日から同五六年一〇月までの間に計四店舗が鹿児島市内に開設され、その店舗はテント方式、看板、カラーコルトン等統一的仕様による外観が消費者に印象的なものであること、当時第一審申請人のフランチャイズ組織は九州を含め全国的に急成長している時期に当り、鹿児島地区では昭和五七年二月ころまでの間に鹿児島市を中心に新聞折込のちらし、バスの車内放送、新聞掲載広告等による右加盟店の募集や開設した加盟店の営業宣伝が重ねられ、ことに昭和五六年一〇月から一一月にかけて新聞折込のちらし約一〇万枚の配布による右宣伝がなされたことを考え合わせると、山下茂一が後記ほっかほか弁当事業の加盟店募集を始めた昭和五七年二月ころ、「ほっかほっか亭」という商号は第一審申請人及びその傘下の加盟店の営業表示として、鹿児島を中心とする地域でも周知表示となつていたものと一応認めるのが相当である。

二原判決事実摘示の申請理由四項1の事実は、山下茂一によるほっかほか弁当事業の加盟店募集開始時期の点を除き、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、第一審被申請会社代表者山下茂一は同会社設立前である昭和五七年二月ころから、当初は株式会社大日本創業という会社名を、次いで第一審被申請会社名を用い、全国フランチャイズチェーン・ほっかほか弁当本部と称し、フランチャイズシステムによつて「ほっかほか弁当」と称する持ち帰り弁当の製造販売事業(以下、ほっかほか弁当事業という)を実施すべく、鹿児島市を中心とする地域において、ちらし、宣伝カー等によりロイヤルティ不用の新企画を謳い文句として右事業の加盟店募集をし、これに応募した各第一審被申請人らとの間に、各第一審被申請人らから加盟料七〇万円を取得して各第一審被申請人らに対し所定の店舗での右事業の実施権を付与する旨のフランチャイズ契約を結び、各第一審被申請人らをして原判決添付別紙店舗一覧表記載のとおりの店舗を同表記載の年月日に開設せしめるに至り、昭和五七年九月以降からは南日本放送局や鹿児島放送局のテレビ宣伝による新規加盟店を募集するようになり、同年一一月一八日に第一審被申請会社を設立して自らその代表取締役となり、爾後第一審被申請会社が右のほっかほか弁当事業を承継して全国フランチャイズチェーンほっかほか弁当本部と称し、従前同様のほっかほか弁当事業の加盟店の募集をしていることが疎明される。原審における第一審被申請会社代表者本人尋問の結果中右疎明に反する部分は採用できず、他に右疎明を左右するに足りる資料はない。

次に、第一審被申請人らの販売する弁当はいずれも「ほっかほか弁当」という商品名を採用している(「ほっかほか弁当」と表示した包装紙に包んである)こと、第一審被申請人らの店舗がいずれもテント方式及びカラーコルトンを採用し、弁当の販売形式としてテイクアウト方式をとつていること、右店舗にはいずれも「ほっかほか弁当」の屋号表示及び全国フランチャイズチェーンの表示がなされていることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、第一審被申請会社設立前においては前記山下茂一が、同会社設立後においては同人のほっかほか弁当事業を承継した同会社が同人と第一審被申請人らとの間で締結した前記フランチャイズ契約及びこれに基づく営業指導により、第一審被申請人らに対し、(一)「ほっかほか弁当」という屋号及び暖かい椀と箸を図案化した標章等の使用を義務付け、店舗前面に設置した黄色いテントに右屋号を大きく紫色や茶色等で、「全国フランチャイズチェーン」の文字及び右標章等を赤色等で表示させるなどしている(原判決添付別紙Bはその一例―第一審被申請人今井豊明の店舗の例―である)ほか、傍らに設置した黄色や白色の看板にも右屋号と標章を同様に表示させるなどし(なお、右テント及び看板に表示された「ほっかほか弁当」の書体は第一審申請人傘下の加盟店の店舗のテント及び看板に表示された「ほっかほっか亭」の書体に酷似している)、しかも、店舗で販売する弁当の包装紙として「ほっかほか弁当」と印刷した包装紙を使用させ、(二)さらに、店舗の様式として右テント方式を採用させて、第一審申請人傘下の加盟店での販売弁当と種類の大半を同じくする弁当メニューをカラーコルトンで店舗カウンター部分に掲示させ、店舗のレイアウト、厨房も所定のものとし、右弁当を所定の材料で製造させたうえ、第一審申請人傘下の加盟店の販売弁当とほゞ同一の値段でテイクアウト方式により販売させていること、右の措置は、第一審被申請会社設立前においては山下茂一の、同会社設立後においては第一審被申請会社のほっかほか弁当事業のフランチャイズシステムに属する加盟店である第一審被申請人らの店舗イメージの統一を図るためのものであるが、右加盟店の店舗は、ことに右テント方式、看板、カラーコルトンの掲示等統一的仕様の外観において、消費者に印象的な効果を与えていることがそれぞれ疎明される。右疎明を左右するに足りる資料はない。

右疎明事実によれば、第一審被申請人らの店舗前面に設置したテント、傍らに設置した看板に表示された「ほっかほか弁当」という屋号は、そこに同様表示されている暖かい椀と箸を図案化した標章とともに、店舗の右テント方式、看板のほかカラーコルトンの掲示等統一的仕様の印象的な外観と相俟つて、右加盟店の営業を表示するものであることはいうまでもない。また、その店舗において販売弁当の包装紙として右屋号を印刷した包装紙を使用することも同様に右加盟店の営業を表示する機能を有するものというべきである。もつとも、右包装紙に印刷された屋号「ほっかほか弁当」が同時に右弁当についての商品の表示ともなつていることは論ずるまでもない。

なお、前記疎明事実に照らせば、第一審被申請人らは、第一審被申請会社設立前においては山下茂一の、同会社設立後においては同会社のほっかほか弁当事業のフランチャイズシステムに属する加盟店であるところ、第一審被申請会社設立前においては右山下と第一審被申請人ら、同会社設立後においては同会社と第一審被申請人らは、それぞれ、前者によつて一種の団体ないし結合体が構成され、それが一つの独立した営業主体のように機能しているものであるから、第一審被申請人らの前示営業ないし商品の表示は、第一審被申請会社設立前においては右山下の、同会社設立後においては同会社の営業ないし商品の表示でもあるというべきである。

三そこで、第一審申請人及びその傘下の加盟店の営業表示である「ほっかほっか亭」と第一審被申請会社及びその傘下の加盟店である第一審被申請人らの営業ないし商品表示である「ほっかほか弁当」の類否等について判断する。

「ほっかほっか亭」の「亭」は本来料理店等の屋号につける語であり、「ほっかほか弁当」の「弁当」は本来外出先で食するための携行用容器入りの食事を意味する語であるが、前説示のとおり、「ほっかほっか亭」は第一審申請人の営業表示であつて、その営業表示をした第一審申請人傘下の加盟店では持ち帰り弁当を製造販売するものであり、他方「ほっかほか弁当」は持ち帰り弁当の製造販売をする第一審被申請人らの店舗の屋号で、その営業表示として機能しているものであるところ、「ほっかほっか亭」と「ほっかほか弁当」における「亭」と「弁当」の差異は顧客にとつて関心が薄く、顧客は専ら「ほっかほっか」や「ほっかほか」の語によりその営業主体を認識するものと考えられる。即ち、「ほっかほっか亭」や「ほっかほか弁当」なる表示の要部はそれぞれ「ほっかほっか」や「ほっかほか」にあるものというべきところ、両者の語は単に「っ」が一字多くあるかないかの差であるのみで、その呼称は同一のイメージを与えるものである。したがつて、「ほっかほっか亭」の営業表示と「ほっかほか弁当」のそれとは類似するものといわねばならない。しかのみならず、第一審申請人傘下の加盟店の店舗と第一審被申請人らの店舗の外観等に関してはそれぞれ前説示のとおりであつて、第一審申請人傘下の加盟店の店舗は、その前面に設置した黄色のテント、その傍らに設置した黄色の看板にいずれも赤色で「ほっかほっか亭」と表示し、そのテント方式、看板のほか弁当メニューのカラーコルトンによる掲示等統一的仕様による印象的な外観を呈し、他方、第一審被申請人らの店舗も、その前面に設置した黄色のテント、その傍らに設置した黄色又は白色の看板に右「ほっかほっか亭」と酷似する書体により紫色や茶色で「ほっかほか弁当」と表示し、そのテント方式、看板のほか、第一審申請人傘下の加盟店の販売弁当と種類の大半を同じくする弁当メニューのカラーコルトンによる掲示等統一的仕様による印象的な外観を呈し、その各外観においていずれも多分に類似するものがあることを考え合わせると、第一審被申請会社が「ほっかほか弁当」本部の名称を用いてほっかほか弁当事業の加盟店を募集すること、いわんや、第一審被申請会社傘下の加盟店である第一審被申請人らがその店舗前面に設置したテントやその傍らに設置した看板に「ほっかほか弁当」という屋号を表示し、また、その店舗で製造販売する弁当の包装紙として右屋号を印刷した包装紙を使用することは、第一審申請人の前示営業上の施設及び活動と混同を生ぜしめる行為であるといわねばならない。

四前叙のとおりとすれば、第一審被申請会社及び第一審被申請人らによる「ほっかほか弁当」なる表示使用に関する前記行為は不正競争防止法一条一項二号に該当するものである。しかして、特段の事情が疎明されない限り、右行為により第一審申請人の営業上の利益が害される虞があるものと認めるのが相当であるから、右行為が同法二条一項所定の行為に該当するとの主張及び疎明がある場合を除き、第一審申請人は右行為の差止めを請求しうるものというべきである。

右の点に関し、第一審被申請会社及び第一審被申請人らは、「ほっかほか弁当」なる表示の使用は不正競争防止法二条一項一号の行為に該当するから、右表示の使用が同法一条一項一、二号に該当するとしてもその適用除外となるべきものである旨主張するが、「ほっかほか弁当」なる表示の使用が持ち帰り弁当の製造販売業界における商品たる弁当に慣用されていることを疎明するに足る資料はないから、右主張は採用することができない。むしろ、〈証拠〉によれば、第一審申請人や第一審被申請会社のフランチャイズシステム以外にも少なからざる持ち帰り弁当製造販売業者のフランチャイズシステムが存するけれども、当該加盟店の屋号ないし商品(弁当)の表示として、「ほかほか弁当」、「ほっかほっか弁当」、「ほっかほっか弁当・すし」、「ほかほか弁当・すし」、「ぼっかぼっか弁当」、「ほっかほかのたきたて弁当」など、「ほっかほか弁当」に多かれ少なかれ類似するものがある一方、「ぬくぬく弁当」、「あったかーい弁当」、「作りたての弁当」、「ぬくぬく手作り弁当」、「たきたて弁当」など、「ほっかほか弁当」に類似するとはいえないものもあることが疎明されるところ、「ほっかほか弁当」なる表示ないしこれに類する表示の使用が持ち帰り弁当の製造販売業界における商品たる弁当に未だ慣用されていないと考えるのが相当である。なお、「ほっかほか」という語は日常語ではあるけれども、日常語も特定種類の商品の名称として利用されるときは独自性を帯有するに至るものであるから、「ほっかほか」の語が日常語であることは前示判断を何ら左右し得ない。

また、第一審被申請会社及び第一審被申請人らは、第一審被申請会社傘下の加盟店である第一審被申請人らの店舗や第一審申請人傘下の加盟店の店舗のようなテイクアウト方式によるできたての弁当の販売店の場合、その顧客が右弁当を購入する動機は弁当の値段、品質、味覚、店舗までの距離如何にあるもので、弁当の銘柄(弁当の出所・営業主体)とは無関係であると考えられるから、第一審被申請会社や第一審被申請人らが「ほっかほか弁当」の表示を使用することは第一審申請人の営業上の利益を何ら害する虞はないと主張するが、持ち帰り弁当の製造販売店舗の顧客が当該弁当を購入するに当つては、弁当の値段、品質、味覚、店舗までの距離のみならず、弁当の銘柄(弁当の出所・営業主体)も動機となつていることは経験則に照らし容易に認められるところであるから、右主張は独自の見解というべく、採用の限りでない。なお、本件審理に顕われた各資料を検討しても、他に、第一審被申請会社及び第一審被申請人らによる「ほっかほか弁当」なる表示の使用によつて第一審申請人の営業上の利益が害される虞がないことを肯定し得べき特段の事情は疎明されない。

さらに、第一審被申請会社及び第一審被申請人らは、東京や大阪等の大都市でも第一審申請人のフランチャイズシステムに属しない大手弁当業者が「ほっかほか弁当」と同一又は類似の表示を使用しているが、第一審申請人のフランチャイズシステムにおいて、東京の「ほっかほっか亭」総本部や大阪等の地区本部が右大手弁当業者を相手に右表示の差止請求をしていないのに、一地方の地区本部である第一審申請人が小組織の第一審被申請会社及び第一審被申請人らによる「ほっかほか弁当」の表示の使用を問題視し、その差止請求権を有するとして、本件仮処分申請に及んだのは権利の濫用であると主張するが、第一審申請人のフランチャイズシステム外の大手弁当業者が東京や大阪等の大都市において「ほっかほか弁当」と同一又は類似の表示をしているからといつて、そのことだけから直ちに、第一審申請人のフランチャイズシステムにおけるほっかほっか亭総本部や大阪等の地区本部が右表示使用の差止請求権を有するとは限らないし、仮に、ほっかほっか亭総本部や大阪等の地区本部が右差止請求権を有しながらその権利行使をしていないとしても、ほっかほっか亭鹿児島地区本部である第一審申請人が、独立の法人として独自に、第一審被申請会社及び第一審被申請人らに対し「ほっかほか弁当」の表示の使用を差止むべき権利を有する以上、その組織の大小如何にかかわらず、自己の有する右権利の行使をなしうることは当然であつて、第一審申請人が右権利行使の一環として本件仮処分申請に及んだことは何ら権利の濫用となるものではないから、右主張は失当たるを免れない。

五次に、第一審申請人の前記差止請求権の具体的範囲について検討する。

まず、第一審被申請会社に対する右差止請求権の範囲について検討するに、前説示のとおり、第一審被申請会社は全国フランチャイズチェーン「ほっかほか弁当」本部と称してほっかほか弁当事業の加盟店の募集をしているものであり、既に第一審被申請会社傘下の加盟店である第一審被申請人らの店舗では「ほっかほか弁当」の営業表示をしているのであるから、第一審申請人が第一審被申請会社に対し「ほっかほか弁当」の名称を用いて弁当の製造販売を目的とするチェーン店の募集をしてはならない旨の差止請求をすることは当然許容されるけれども、「ほっかほか弁当」に類似する名称を用いて右チェーン店の募集をしてはならない旨の差止請求をすることは、差止の内容が具体的に特定しないから許されないものというべきである。蓋し、ある名称が「ほっかほか弁当」に類似するか否かは裁判所の具体的判断によつて初めて明らかにさるべきものだからである。

次に、第一審被申請人らに対する右差止請求権の範囲について検討するに、その差止の範囲は不正競争行為の排除、停止、予防の目的にとつて必要かつ十分な限度にとどめるべきものであるところ、これを本件についてみれば、第一審被申請人らの店舗に設置してあるテント及び傍らの看板に「ほっかほか弁当」の表示がされていること及び右店舗における販売弁当の包装紙として「ほっかほか弁当」と印刷してある包装紙を使用していることは前説示のとおりであるが、その店舗に設置してある弁当メニューを示すカラーコルトンに「ほっかほか弁当」の表示がされていることを疎明するに足りる資料はなく、また、第一審申請人傘下の加盟店の店舗と第一審被申請人らの店舗の外観等については前説示のとおり多分に類似する点があるにしても、第一審被申請人らの店舗に設置してある右テント及び看板における「ほっかほか弁当」の表示を抹消し、かつ、後記のとおり「ほっかほか弁当」の表示をした包装紙の使用を禁止さえすれば、右テント、看板、カラーコルトンそのものを撤去しなくとも、そのことによつて第一審申請人傘下の加盟店の営業上の施設及び活動と混同を生ぜしめ得ないものと考えられるから、第一審申請人は第一審被申請人らに対しその店舗に設置したテント及び看板に表示された「ほっかほか弁当」の名称の抹消を求めることは許されるが、右テント及び看板自体の撤去、いわんや右店舗に設置したカラーコルトン自体の撤去を求めることは許されないものというべきである。そして、第一審被申請人らが今日に至るまでその店舗に設置してあるテント及び看板に「ほっかほか弁当」の表示をし、その店舗における販売弁当の包装紙として「ほっかほか弁当」と印刷した包装紙を使用してきている状況にかんがみると、第一審被申請人らが今後ともその店舗の営業表示として「ほっかほか弁当」の表示があるテント、看板、包装紙を使用する虞があるばかりでなく、新たに、「ほっかほか弁当」の表示がある旗、容器、メニューを使用するに至る虞もないではないから、第一審申請人は第一審被申請人らに対し「ほっかほか弁当」の表示をしたテント、看板、旗、包装紙、容器、メニューを使用してはならない旨の差止請求をもなしうるものというべきである。

六さらに進んで、第一審申請人の前記差止請求権の保全の必要性について判断する。

前説示のとおり、第一審申請人はほっかほっか亭鹿児島地区本部としてほっかほっか亭事業の加盟店を募集し、これを締結したフランチャイズ契約(連盟加入契約)により加入金三〇万円のほか毎月七万円のロイヤルティの支払をうけて右加盟店に右事業を実施させているのであるから、その経済的基礎は右加入料とロイヤルティにあることはいうまでもなく、さらに、前出疎甲第二〇号証、原審証人横内密の証言、原審における第一審申請人代表者本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、第一審申請人は右経済的基礎を背景として右フランチャイズ契約に基づく営業指導により、自己傘下の加盟店における営業、その商品である販売弁当に対する消費者等の信用を獲得してきたもので、これまで右加盟店に関する限り消費者等からのこれといつた苦情のなかつたことが疎明され、右疎明を左右するに足りる資料はない。そして、第一審被申請人会社が「ほっかほか弁当」の名称を用いてその加盟店を募集することやその傘下の加盟店である第一審被申請人らがその店舗に右名称を表示するなどして、第一審申請人及びその傘下の加盟店の営業上の施設及び活動と混同を生じさせる行為は、それ自体、特段の事情のない限り、第一審申請人及びその傘下の加盟店の得べかりし経済的利益を喪失させるのみならず、その社会的信用、名誉をも毀損することとなるものというべく、しかも、原審における第一審申請人代表者本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、第一審申請人の許に、消費者等から、第一審被申請会社傘下の加盟店である第一審被申請人らの店舗営業及びその販売弁当に関し、「弁当が粗悪である」、「弁当のおかずに釘が入つていたがどうしてくれるか」、「店主が米代を払つてくれないから本部の方で払つてくれ」などの苦情が持ち込まれていることが疎明される。右疎明に反する資料はない。しかして、第一審申請人の第一審被申請会社及び第一審被申請人らに対する前記差止請求権に関する疎明の程度に加えて、第一審申請人の右経済的損失はその性質上これを立証することが非常に困難であり、第一審申請人の右社会的信用、名誉の毀損は金銭的賠償をもつてしては償えない側面を有することを考慮すれば、他方において、右差止請求権に基づく仮処分により第一審被申請会社や第一審被申請人らの被るやも知れない経済的損失その他の不利益の程度を勘案しても、右差止請求権の保全の必要性を肯認するのが相当である。

七  以上の次第であるところ、第一審申請人の前記差止請求権に基づく仮処分として、

1  第一審被申請会社に対する関係では、第一審申請人が同会社のため金五〇〇万円の保証を立てることを条件として「第一審被申請会社は「ほっかほか弁当」の名称を用いて弁当の製造販売を目的とするチェーン店を募集してはならない。」と、

2  第一審被申請人らに対する関係では、第一審申請人が第一審被申請人らのためそれぞれ金一五〇万円の保証を立てることを条件として「(一)第一審被申請人らはそれぞれ本判決正本送達後二日以内に原判決添付別紙店舗一覧表記載の各自の店舗に設置しているテント、看板に表示された「ほっかほか弁当」の名称を抹消せよ。(二)第一審被申請人らがそれぞれ右期限までにその抹消をしないときは、第一審申請人は鹿児島地方裁判所執行官に当該第一審被申請人の費用でその抹消をさせることができる。(三)第一審被申請人らは「ほっかほか弁当」の表示をしたテント、看板、旗、包装紙、容器及びメニューを使用してはならない。」と、

それぞれ定めるのが相当というべく、従つて、第一審申請人の本件仮処分申請は右の範囲で認容し、その余の申請を却下すべきものである。

よつて、右と異なり、第一審申請人の第一審被申請会社に対する本件仮処分申請を全部無条件で認容し、第一審申請人の第一審被申請人らに対する本件仮処分申請を全部却下した原判決は不当であつて、第一審申請人及び第一審被申請会社の各本件控訴はそれぞれ一部理由があるから、第一審申請人の控訴に基づき原判決中第一審被申請人らに関する部分を主文第一項のとおり変更し、第一審被申請会社の控訴に基づき原判決中第一審被申請会社に関する部分を主文第二項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(西内辰樹 谷口彰 玉田勝也)

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